画像はアメリカ空軍が開発中の新型ドローン『XQ-58A』がテスト飛行を行う様子。(Skyborgプロジェクトとは別)。
出典:The Official Home Page of the U.S. Air Force、以下同じ
アメリカ空軍はAIを搭載した大型軍事用ドローンを開発する『Skyborg(スカイボーグ)』計画の実施に際して「一般企業に情報や技術の提供を求める」と発表しました。
同プロジェクトAIを広範に導入することが前提とされており、ドローンを制御する(遠隔操作ではない)技術から、特定の任務におけるタスク(例えば、一定範囲を飛び続けて、写真を撮影する偵察など?)にまでAIを利用する前提で機体が開発されているそうです。
この記事では、そのSkyborg計画にまつわる5つの疑問について、アメリカ空軍の発表資料や報道を元に答えを探りたいと思います。
もくじ
AI搭載の軍用ドローン開発プロジェクト
Skyborgに関する5つの疑問
疑問1
いつ完成する?
同プロジェクトでは2019年に適切な技術や仕様を判断するための「パスファインダープログラム」がスタートし、2023年末までに「早期運用能力をもつ」試作機を完成させることが目標とされています。遠隔操作の無人機は既にアメリカ空軍が大量に運用していることを踏まえると「AI搭載軍用ドローン」自体はアップデート程度のもので突飛な目標ではないのかもしれません。
疑問2
なぜつくる?
今回発表された文章には「敵対者(Adversaries)たちがAIや自立飛行を行うシステムに多額の投資を行っている」「低コストの消耗品とAIの組み合わせが高い能力持ち、空軍の脅威になりうる」という旨の記述があります。
有人戦闘機においては『F‐22』ラプターのような世界最先端の機体を有する米軍ですが、そのような優位性が「人工知能と搭載した、安くて、大量のドローン」に脅かされるかもしれないと考えているようです。確かに、1対1の空戦でラプターに勝る戦闘機を開発できる国は無さそうですが、仮に「自爆攻撃を仕掛けるドローン100機で1機のラプターを撃破する」というシナリオであれば、実現可能な機体を開発できる国が増えそうです。
疑問3
どの会社が作る?
2018年にGoogleによる兵器利用を前提としたAI開発計画『Project Maven』の漏洩と頓挫の報道があったことから、今回のSkyborg計画に関してもシリコンバレー系企業を絡めてレポートする記事が散見されます。しかし、軍用機の開発となるとボーイングやロッキード・マーティンなどの航空機開発の実積が豊富な企業が請け負うことになると見るのが妥当です。
関連記事
» MQ-25:ボーイングが米海軍の空中給油ドローンの製造を約810億円で受注
» MQ-25:空中給油ドローン『スティングレイ(ロッキード・マーチン製)』の動画
ボーイングは既にAI対応の大型ドローンを発表済
Skyborg計画が今回のアナウンスを行う約1カ月前にボーイング・オーストラリアが有人航空機の支援を行うAI搭載ドローンの発表を行っており、既に具体的な開発が進められていることがわかります。
【動画】ボーイング・エアパワー・チーミング・システム
Revealed! Our new smart, reconfigurable unmanned system teams with other aircraft to protect & project air power. The Boeing Airpower Teaming System – Australian investment & innovation at work! #TheFutureIsBuiltHere #AirpowerTeaming #ausdef
More: https://t.co/77LPYPO93b pic.twitter.com/g0CQjQjxty— Boeing Australia (@BoeingAustralia) February 26, 2019
※『スマートニュース』アプリでご覧の際に、以下の画像や動画が表示されない場合は、記事末尾の「オリジナルサイトで読む」をタップしてください(環境によって動画が表示されない場合があります)。
- 全長11.7メートルで航続距離は3,700キロメートル以上、戦闘機のようなパフォーマンスを発揮
- 統合センサーを搭載し、情報収集・警戒監視・偵察・電子戦等の各任務
- 自律航行、他機との安全な距離を維持しながらの有人航空機支援に人工知能(AI)を使用
なお、同機体の初飛行は2020年の予定とされています。
疑問4
どう使われる?
Skyborg計画の文章では「現時点では特定の目的を持つ航空機プラットフォームとしての開発は予定していません。しかし、システムにモジュール性を持つオープンシステムアーキテクチャであることが需要です」という旨の記載があります。明確に「偵察機」とも「攻撃機」ともしていませんが、これまでの無人機(遠隔操作)の運用から推測するに、おそらく当初は偵察用として使用し、段階的に地上攻撃用の武装機として、最終的には空対空戦闘に耐えうる機体へとアップデートしていく流れになるものと思われます。
疑問5
本当に作れる?
Skyborg計画が目指すような「AIを搭載し、自律飛行が可能。さらに、特定の作戦行動をも自動で行える大型ドローン」は果たして実現可能なのでしょうか?
実は、自律飛行を行う大型ドローンの開発自体はそれほど困難なものではありません。既に障害物を避けて飛行する程度の機能であれば民生用のドローンでも実現されていますし、バードストライクや落雷などを除けばさしたる障害もない高度を飛行する大型ドローンにとっては自律飛行そのもののハードルは低いとみて良いでしょう。
【動画】障害物を避けて自律飛行する民生用ドローンSkydio
また、新型の機体の開発も着々と進められており、亜音速で飛行するドローンのテストフライトの様子がアメリカ空軍により公開されています。
【動画】XQ-58A First Flight
一方で、最も難易度が高いのはAI搭載のドローンを攻撃機として使用することです。これは、標的を正確に把握しなければならいというシビアさに加えて、「そもそもAIが人間を攻撃することが許されるのか?」という倫理的な問題もあるため、どのような結果になるのかは不明瞭です。
編集後記
Skyborg計画にまつわる今回の発表からは、アメリカ空軍が広範に渡り活用できるAI搭載ドローンの開発を目指していることがわかりました。また、敵対者(国?)がAIに多大な投資を行っている現状に対する危機感を示している点も興味深いところ。
関連記事
さすがに国名を「名指し」しての記述はありませんでしたが、中国やロシアが軍用無人機の開発を進める状況において、世界最強を誇ってきたアメリカ空軍の優位性が脅かされつつある様子が垣間見えます。空を舞台にした新たな軍事競争はドローンやAIなどの先端技術を取り込み加速していきそうです。
あわせて読みたい!
ドローンレースの世界大会、2020年日本開催をALIなどが目指す