2011年3月に発生した東日本大震災によって、東北を始めとした福島県は甚大な被害を受けました。特に、沿岸部は津波だけでなく原発事故の影響を受けるなど被害は甚大です。
福島県沿岸部地域の復興および産業回復のため、国は「福島ロボットテストフィールド」というプロジェクトを立ち上げました。2020年3月に全面開所したプロジェクトですが、具体的にどういった施設なのでしょうか。この記事では福島ロボットテストフィールドについて、概要や特徴を解説します。
もくじ
福島ロボットテストフィールドとは?
復興の切り札として国家プロジェクトとして進められている福島イノベーション・コースト構想に基づき設立されたのが「福島ロボットテストフィールド(以下、RTF)」になります。
RTFは陸・海・空、全てのフィールドで活躍するロボットの一大開発実証拠点として整備されています。また、色々なパターンのインフラや災害現場など実際の使用環境を再現することで、その場所に適応したロボットの性能評価や操縦訓練などができるという、世界規模で見ても唯一無二の施設になっています。
RTFは南相馬市復興工業団地内にあり、東西約1,000m、南北約500mという広大な敷地内に無人航空機エリア、インフラ点検・災害対応エリア、水中・水上ロボットエリア、開発基盤エリアと併設されて、浪江町の棚塩産業団地の中に長距離飛行試験用の滑走路を整備しています。
2021年度には、ワールド・ロボット・サミット2020「インフラ・災害対応カテゴリー競技」がRTFの試験用プラントと試験用トンネルにて開催されました。
日本では国家戦略として、今までの情報化社会が内包している様々な問題を解決するため、「Society 5.0」という仮想空間と現実空間を高レベルで融合させたシステムを構築しました。これを活用し、経済の発展と社会的課題の解決を両立させる社会を目指しており、RTFはその構想を具現化した施設となります。
福島ロボットテストフィールドの特徴
「RTF」は、無人の航空機、災害対応のロボット、水中探査ロボットのような陸・海・空のフィールドで活躍するロボットの一大開発実証拠点として福島県の広大な土地に造成されました。
ロボット開発の分野でイノベーションを起こすために最新の設備が整った開発拠点で、現在でもたくさんの企業や大学の研究室がRTFを活用して研究を進めています。
開発拠点として、実験施設・開発施設だけでなくインフラや災害現場など実際の使用環境を再現した施設が整備され、・海・空ロボットの性能評価や操縦訓練などができるようになっています。
下でも述べるように最新の設備を時間単位で借りることができ、どなたでも利用が可能です。
- RTFは以下の4つの柱となる行動指針にしたがって取り組んでいます。
- 世界トップレベルのロボット実験の環境、技術を提供し続けていく。
- 国内外のロボットの研究開発、運用者の交流を活性化する。
- ロボットの安全性の確保、社会実装のために、仕組み作りに貢献する。
- ロボットに係る技術者などの次世代にむけた人材育成に貢献する。
また、「空飛ぶクルマ」実現のために試験飛行の拠点としても位置付けられて、飛行試験場としても活用されています。
福島ロボットテストフィールドの利用方法
ここでは、予約の申し込みから当日の受付までの流れ、キャンセル方法について紹介します。
1.予約申込
まずは問合票を記載し、予約窓口へ送付します。
2.日程調整
施設の使用内容を確認され、予約(変更)連絡票にて使用可能な日程を調整します。
この際、技術職員と事前打ち合わせを行い利用概要の確認と必要書類についての説明を受けます。
3.使用計画書と使用確認票を作成
予約(変更)連絡票をもとに使用承認申請書を作成し、予約窓口へ送付します。
使用計画書は2週間前までに使用責任者が作成し提出する必要があるほか、使用計画書を基にRTFが使用内容の確認を行い、必要がある場合には使用計画書の修正が入ることがあるため、注意が必要です。
4.許可証のコピーを提出
他機関の許可・承認など必要なものについて申請を行い、許可証のコピーを提出します。
RTF内でも通常の法令が適用されるため、使用内容で法令上の許可承認などが必要な場合は、RTFへ許可を受けたことが証明できる書類のコピーも提出します。
5.使用計画書の内容について技術課と協議。
実効性の確認とリスクアセスメントを行います。
6.使用承認と使用料の確定
使用承認申請書が届き次第、使用可能な施設とスケジュールが確定し、使用料の支払義務が発生します。
7.使用当日の利用
使用時間の15分前から受付を開始しています。
8.使用のキャンセル
使用をキャンセルする場合は、電話で窓口に連絡後、使用取り止め届出書を提出します。
また、各種様式はこちらでダウンロードが可能です。
福島ロボットテストフィールドの施設紹介
ここでは、福島ロボットテストフィールドの施設をエリアごとに紹介します。
〇 無人航空機エリア

出典:https://www.fipo.or.jp/robot/facility
国内最大となる無人航空機向け飛行空域、滑走路、緩衝ネット付飛行場で、基本的な飛行から長距離飛行、衝突回避、落下、不時着など多様な試験が可能な環境を整備し、無人航空機の実用化を推進できるエリアになっています。
〇 水中・水上ロボットエリア

出典:https://www.fipo.or.jp/robot/facility
国内唯一の水中におけるロボットによる大規模なインフラの点検と災害対応を実証する試験のために整備された試験場です。河川、ダム、港湾、水没した市街地などの水中で発生するであろう様々な状況を再現したエリアです。
〇インフラ点検・災害対応エリア

出典:https://www.fipo.or.jp/robot/facility
国内唯一の地上におけるロボットによる大規模なインフラの点検と災害対応を実証する試験のために整備された試験場です。市街地、道路、トンネル、プラント、橋梁などの構造物の中で、想定されるほぼ全ての災害環境、老朽化状況を再現したエリアです。
〇 開発基盤エリア

出典:https://www.fipo.or.jp/robot/facility
RTFの本館としての機能を持つ建物です。各試験の準備や加工・計測だけでなく、ロボットの性能評価として雨、風、防水、水圧、霧、温湿度、防塵、振動、電波に対する試験を行うことができるエリアになっています。
福島ロボットテストフィールドに入居している企業をご紹介
ここでは、福島ロボットテストフィールドに入居している企業と事業内容を一覧で紹介します。
〇 東京大学航空宇宙工学専攻土屋研究室 ドローン性能評価手法(東京都)
・先進的航空機の研究
・無人航空機開発技術の構築
・創造的ものづくり教育
〇 ㈱リビングロボットパートナーロボット(福島県)
・パートナーロボットプラットフォーム事業
・ライフイノベーション事業
〇 公立大学法人会津大学 災害対応ロボット(福島県)
・日本で最初のコンピュータ理工学専門の大学
〇 ㈱プロドローン 大型ドローン(愛知県)
・ドローンに関連する各種先端技術の研究開発
〇 會澤高圧コンクリート㈱ インフラ点検用ドローン(北海道)
・産業用エンジン直動式ドローンを使った地域防災システムの開発
〇 アビエーション㈱・テトラ 空飛ぶクルマ(東京都)
・電動垂直離着陸航空機eVTOLの製造(空飛ぶクルマ、パーソナルeVTOL)
・一人乗りの航空機を開発
〇 ㈱クフウシヤ 自律移動ロボット(神奈川県)
・サービスロボットSlerの開発
・協働ロボットの受託開発
・自律移動ロボットの試作開発
〇 ㈱デンソー 橋梁点検ドローン(愛知県)
・UAVを活用した橋梁点検ソリューション
・可変ピッチプロペラを用いたドローンの開発
〇 東北大学未来科学技術共同研究センター(宮城県)
・次世代モビリティ(EV、自動走行)の研究実証や地域実装の推進拠点整備
・先進交通システム開発企画提案
〇 ㈱東北ドローン ドローン関連サービス(宮城県)
・ドローンを活用したサービスの開発
〇 一般社団法人ふくしま総合災害対応訓練機構 災害対応ロボット実用化(福島県)
・総合災害対応訓練
・災害対応ロボット実用化
〇 ㈱ロボデックス 水素燃料電池ドローン(神奈川県)
・水素燃料電池ドローンの研究開発と販売
〇 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所(東京都)
・航空交通管理
・航空機の管理、通信、航法システムの研究開発
〇 ㈱メルティンMMI アバターロボット(東京都)
・遠隔で人の動きを再現する「アバターロボットの開発」
〇 綜合警備保障㈱ 警備用ドローン(東京都)
・セキュリティ事業
・警備輸送業務
・常駐警備業務
・機械警備業務
〇 Energy株式会社AZUL ドローン用軽量バッテリー(宮城県)
・次世代電池の開発/次世代電池用触媒の開発
〇株式会社先端力学シミュレーション研究所 ドローン開発(東京都)
・シミュレーション技術を活用したシステム開発や受託解析
編集後記
ここまで、福島ロボットテストフィールドについて解説しました。ロボットの開発・実証の拠点として、無人航空機やインフラなどあらゆるロボットに対応したエリアを構えている点が特徴です。また、福島県や宮城県といった東北以外にも、東京都や愛知県など、さまざまな自治体の企業が参加していることが分かります。福島県沿岸部を始め、県全体の産業がプロジェクトによって、より活発になることが期待できるでしょう。