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サウジアラビアの北西部で、大規模都市計画が進められていることをご存じでしょうか。そのプロジェクトは「NEOM(ネオム)」と呼ばれており、近未来的な都市計画、そして莫大な費用がかかることから海外メディアからも注目を集めています。
「NEOM」自体、日本から遠く離れた国であるため、あまり馴染みがないかもしれません。しかし、日本政府や国内企業にも関わりがあるプロジェクトです。
この記事では、「NEOM」の具体的な特徴や完成予定日について紹介します。
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NEOMとは?
NEOMとは、現在サウジアラビアで開発が進められている大規模都市計画のことです。「NEO」はラテン語で「新しい」、「M」はアラビア語で「未来」を意味しています。NEOMはサウジアラビア政府が主導しており、「サウジビジョン2030」で掲げる重要なプロジェクトの一つです。
「サウジビジョン2030」は、2017年に策定された「日・サウジ・ビジョン2030」で制定されました。「日・サウジ・ビジョン2030」とは、日本とサウジアラビアが文化や経済の面でさまざまな事業協力を行うことを進める指針です。「サウサウジ・ビジョン30」でNEOMが掲げられている背景にサウジ・ビジョン入源の確保、経済や社会のさらなる発展を目指すという目標があります。
世界から注目を集める「NEOM」ですが、プロジェクトの総費用は5000億ドル(日本円にすると約68兆円)にまで上るといわれています。大規模スマートシティ、未来的な高層都市である「NEOM」は、莫大な開発費用がかかっていることでも各国メディアの注目を集めているのです。
NEOMの特徴
「NEOM」の都市構想は、周囲にある自然を保護しつつ、人間を第一に考える都市生活を国民に提供するということを前提にしています。「NEOM」はサウジアラビア北西部、紅海から内陸部の砂漠地帯にかけて計画されており、総面積は26,500㎢です。
また、「NEOM」の一環で建設が進められている「THE LINE」という高層ビル計画があります。このビルは高さが500m、幅は200mと巨大です。
「THE LINE」で建てられる巨大ビルには、居住スペースはもちろん学校やショッピングモール、レジャー施設、公園に至るまでさまざまな施設が含まれます。「THE LINE」には約900万人が居住する予定になっており、建物同士は高速鉄道によって20分前後での移動が可能です。さらに、サウジアラビア政府は「THE LINE」内での雇用創出にも積極的で、2030年までには38万人の雇用を目指しています。
NEOMでは人工知能も活用され、THE LINEに居住する約900万人のデータが解析、使用されます。データは、顔認証システムや住民のスマートフォン、センサーなどから集められる予定です。集まった住民のデータは電気や水道といったインフラ、医療や交通、治安の管理などに利用されます。データの使用方法についてNEOM住民の権利は強化され、データの利用には対価が支払われるそうです。データの管理は、「同意管理プラットフォーム」というシステムで行われます。
NEOMではTHE LINE以外に、「空港NEOM Bay Airport」や「港湾NEOM Bay」、「工業エリアNEOM Industrial City」といった、空港や港なども整備される見込みです。NEOMの範囲は広大ですが、実際の開発範囲は土地の5%と定めており、残りの95%に関しては自然環境を壊すことなく保存を目的としています。
また、NEOMでは準独立という政府の枠組みから外れた自由特区とすることを目指しています。準独立することで、NEOM独自で法律やルールを定め、自由かつ競争力のある都市ができるのです。
いつ完成予定?
では、NEOMはいつ頃完成予定なのでしょうか。2017年に発表されたNEOMのプロジェクトは、その後開発が進められ、2022年7月にはビルが2棟完成しているという報道がされました。ビルが2棟建っている以外、大部分の開発地域は砂漠のままのようです。こうした現状から、開発プロジェクトは大幅に遅れているとメディアでは報じられています。
NEOMのプロジェクト発表当初は、2020年までに大部分が完成する予定でしたが、新型コロナウイルスによる影響などにより、完成は2025年まで延長されました。
NEOMの何がすごい?
「NEOM」は一般的な都市計画の型にはまらない、独特のプロジェクトです。サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子殿下は「NEOM」について、「水平都市の課題に対応した多層都市によって、自然を保護しながらの都市開発を実現できる」「理想的な生活環境を作りつつ人類が対処すべき課題に対処する」と発言しています。
ダイバーシティ
「NEOM」には居住スペースや学校、ショッピングモールなどを含めた都市部の他に、空港や港、企業ゾーンや研究施設も含まれます。企業ゾーンにはビジネスリーダーや起業家が集まり、研究施設では最先端のテクノロジー開発が行われるでしょう。さまざまな企業や施設、人材の拠点となる「NEOM」では、国際的かつ多様性のある文化の受け入れを促進します。
スマートシティ
「NEOM」同様に開発が進む「THE LINE」は、通常の高層ビルとは異なり住居や学校、会社などを垂直に重ね合わせて建設するため、あらゆる場所において移動は5分以内で済み、効率良く対応可能です。シームレスな移動を可能にするこの概念を、「ゼログラビティ・アーバニズム」と呼びます。また、車や排出ガスがない環境を確立し、都市機能は100%再生可能エネルギーで稼働可能です。
グリーンウォッシュ
「NEOM」の革新的な内容は、サウジアラビアの国民がより良い環境で生活できるようになるためにあると分かります。しかし、「NEOM」には少なからず批判的な意見もあるのが現状です。専門家の中にはテクノロジー的な問題点や、建築デザインについての指摘をする人も少なくありません。
また、「NEOM」はグリーンウォッシュではないかという批判もあります。グリーンウォッシュとは、環境に配慮しているように見えて、実際は違うという意味です。これらの他にも「NEOM」に対する意見はさまざまで、賛否両論ある都市計画といえます。
NEOMの今後の方針
サウジアラビアを含め中東の国々では、収入源を石油に頼らないようにする動きが広まってきています。なかでも、石油以外の収入源として注目されているのは、投資産業と観光産業です。NEOMには、サウジアラビアが石油以外に投資産業や観光産業を広めるという目標もあります。
またNEOMの開発は、サウジアラビアの隣国であるエジプトの観光産業にも良い影響を与えると考えられています。理由は、エジプトの紅海に面している観光地に関しては、NEOMの開発によってよりインフラが整えられることが期待されているためです。このことから、エジプト政府はNEOMへの関わりを積極的に持とうとしています。
他にも、NEOMの枠組みで、サウジアラビアとエジプト間で投資に関する連携が強化され、合弁ファンドが設立されたり、複数の投資が合意されたりしています。また、サウジアラビアは今後の方針として、2024年にNEOMを証券取引所に上場させる予定です。
日本企業でもNEOMに参入する企業があります。大手総合商社の伊藤忠商事は2022年06月に、NEOM子会社の「ENOWA」とフランスの環境サービス大手「ベオリア」との間で覚書を締結しました。これは、NEOMで次世代海水淡水化プラントを建設するためです。
このように、サウジアラビアをはじめ、中東の国々では水不足が課題となっています。NEOMでも同様で、水の需要が高まる一方で水不足にどう対応するかが問題でした。次世代海水淡水化プラントの建設は、NEOMの水供給に関する課題解決につながるでしょう。
次世代海水淡水化プラントの構想としては、初期造水は2024年、NEOMの100%再生可能エネルギーを動力にして、持続可能な水の供給を行います。また、次世代海水淡水化プラントの建設に向けて、水上工業団地「OXAGON」をNEOM内に建設予定です。
編集後記
ここまで、NEOMの概要を解説しました。サウジアラビアや他の中東諸国では、石油に頼らない収入の確保が課題です。NEOMという革新的な都市計画は、その課題を解消するための一歩となるでしょう。
しかし、賛成意見だけでなくテクノロジーなど建築に関して、批判的な意見があるのも事実です。NEOMは2025年に完成予定とされていますが、どういった方針で批判的な要素をまとめていくのか、今後の動向に目が離せません。
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