FPVと呼ばれる一人称視点の遠隔操縦システムを装着したオペレーターによって操られるドローンがLEDライトに彩られたコースの上を縦横無尽に飛び回る……そんなSF映画のワンシーンのような世界で繰り広げられるドローンレースがあると聞けば、興味をそそられるのは筆者だけではないはず!
この記事では、このようなドローンレースを知って、見て、楽しむための情報を現地取材をもとにまとめましたので、ぜひ、チェックしてみてください。
画像出典: JDRA提供
何年か前に小型のトイドローンを飛ばしてみたところ、上手く操作ができなかった私としては「本当に、ドローンでまともなレースができるのかなぁ」と思ったのですが、いまやドローンは100kmを超える高速で飛行をしつつ、複雑なコースを飛び抜けられるマシンへと進化をしているようです。
「でも、それってドバイとか、なんかバブリーなとこでしかやってないんでしょ?」と思った私は、またも時代遅れ。ドローンレースはすでに日本各地で開催されており、仙台市でJAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAI(ジャパン・ドローンナショナルズ・2017・イン・仙台)という大会が行われるようです。
それならば、取材するしかない! というわけで、さっそくレース会場へ行ってみることにしました。
もくじ
ドローン レースとは?
いざ、仙台!とはやる気持ちをおさえて……まずは、個別の大会についての話の前に、ドローンレース全般についてざっくりと基本情報を整理してみましょう。
おもなドローンレースの大会
画像出典: JDRA公式サイト
今回レポートするJAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAI以外にもドローンレース大会は複数存在しており、すでに日本各地で活発にイベントが開催されています。
ザッと調べただけでも、Drone Impact Challenge実行委員会が運営する同名の大会や、Japan Drone Leagueが主催するJDLレース、石垣市のドローン利活用推進実行委員会によるISHIGAKI DRONE RACE、一般社団法人ドローン普及協会が行うハッピーバード ドローンフェスなどの大会が行われていることがわかりました。
また、海外でも1億円を超える賞金総額で話題となったDubai World Drone Prixを始め、多数のドローンレース大会が開催されているようです。
JAPAN DRONE NATIONALSとは?
今回、筆者が取材に行くJAPAN DRONE NATIONALS in SENDAIは2016年に初大会を行い、今回が2度目の開催となるそうです。
主催しているのは2015年2月に設立された団体JDRA(一般社団法人日本ドローンレース協会)。代表理事を務めるのは小寺悠さんで、彼はアジアドローンレース連盟の副会長でもあるとのこと。そういったこともあってか、今回の仙台大会の優勝者は韓国ソウル市で開催予定のSeoul World Drone Championshipに日本代表として参加できる権利が与えられるとのこと。国を超えたドローンレース大会のコレボレーションが行われている点にも、世界的なドローンレースブームの盛り上がりが感じられます。
JAPAN DRONE NATIONALSのレギュレーション
ドローンと一口に言っても千差万別。手乗りサイズの物から、軍隊が使う全長10メートルを超えるものまで様々ですが、レースに参加する機体はそれぞれの大会のレギュレーションに従わなければなりません。 例えば、今回のドローンレース大会JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIでは、サイズについては「モーターの対角線距離が最小150mmから最大250mm」「3インチから最大6インチまで可」と定められています。
【参考】機体レギュレーション | 一般社団法人日本ドローンレース協会(JDRA)
FPVドローンレースとは?
上記のレギュレーションに加えて、今回の大会に参加できるのはFPV ドローン限定となっています。この「FPV」とは、いったい何かと言うと「First Person View(一人称視点)」の略称で、FPVドローンというのは、オペレーターがドローンから送られてくる映像を見ながら操縦する機体のこと。一般的なトイドローンを飛ばすのとは異なり、操縦者が肉眼で機体を目視し飛行させるわけでないという点がこのレースの特徴です。
画像出典: JDRA提供
JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAI現地レポ!
さて、いよいよここからはドローンレースの世界を現場からのレポートを交えてお伝えしていきます
JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIの会場
決戦の舞台は宮城県にあるゼビオアリーナ仙台。最寄り駅はJR長町駅で、東京都内からは電車でだいたい2時間30分〜3時間で来られる距離です。
JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIのレースコース
ドローンレースのコースはこんな感じです。写真左手奥がスタート地点で、そこから飛び立ったドローンはコース内に配置されたゲートや中央のやぐら(タワー)を決められた順番でくぐり抜けつつ、その速度を競います。なお、今回のレースのコースが設置されたアリーナのサイズは面積2,170平方メートルで天井の高さは20メートルとのこと。優秀な選手であればこのコース1周をを20秒以下で飛行できるというから驚きです。
ちなみに、今回のレースの解説は、ご自身もドローン空撮などを行うオペレーターとして活躍している大前創希さん(写真左)が担当されていました。
FPV レースで使用される機体
ドローンと言えば、DJIの『Phantom(ファントム)』シリーズやGoProの『Karma(カルマ)』などが有名ですが、今回のドローンレースに参戦する機体は手作りのものがほとんど。市販のキットをベースにカスタマイズしたり、パーツを作成したりして組み上げた機体を、それぞれのチームが持ち込んでいます。
ちなみに、ドローンレースでは、レギュレーションにより「モータの数は3、4、6個のいずれか」「バッテリー容量は800mAhから1800mAhまで」などと細かく定められており、「技適認証済のプロポ(コントローラ)」を使用すること、といった決まりもあるそうです。
JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIの大会スケジュール
APAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIは、7月1日から2日にかけての開催でした。初日が予選で、2日目は本戦〜決勝という流れです。当初予定されていたタイムスケジュールは以下の通りですが、実際は機体の調整やレース結果の判定などに時間を要する場面があり、遅めの時間まで大会が行われていました。
【1日目】
- 10:00 会場
- 11:00〜11:30 選手への説明
- 11:30〜15:00 ドローンレース(予選タイムアタック)
- 15:30〜17:30 本戦コースでの試し飛行
【2日目】
- 10:00 会場
- 10:05〜15:30 ドローンレース(本戦、決勝戦)
- 15:30〜16:30 表彰式、インタビューなど
FPV ドローンレースに挑むオペレーターの様子
オペレーターたちは、以下の写真のように3人ずつレースに挑みます。
操縦は会場内のネットで守られたスペースから着席した状態で行い、肉眼でドローンをみながら操縦することはありません。1レースにつき3名が参戦し、それぞれが、FPV(一人称視点)ゴーグル越しにドローンから送られてくる映像をみながら、手元のプロポ(コントローラー)でドローンの操縦をしています。
選手がかぶっているのは以下の写真のようなゴーグルで、この中にドローンに搭載したカメラが捉えた映像がリアルタイムで送られてきます。
実際に選手が見ている映像はこんな感じ。このようにかなりブレやノイズが多いので、この映像だけに頼っていては高速での飛行ができず、コースを覚え込み先を読みながら飛行することがオペレーターに求められます。
画像出典: JDRA提供
また、FPVによる操縦では、オペレーターが肉眼でみた場合に死角になる場所をドローンが飛行する際にも機体前方の状況を確認できるメリットがある一方、ドローンのカメラの死角にあたる上下左右の状態をオペレーターが知ることはできません。また、鋭角にターンする場合などは死角にあたる部分を記憶と直感でおぎないながら操作をする必要があるため、FPVでの飛行には専門のテクニックが必要なだけでなく、ある種のセンスが求められるとのこと。
今回のドローンレースのコースにおいては、中央のやぐら(タワー)の中をくぐり抜けるターン時に各選手のセンス、もしくはクセがよく現れるらしく、ドローンレース通やオペレーターたちはこの部分での飛び方の違いをみて楽しんでいるようでした。
JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIのレース動画
実際にドローンレースが行われている様子は、以下の動画からご覧いただけます。
JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIの結果
波乱の本戦
レースにおける勝者の決め方はレースごとに異なり、ベストラップをとる場合やコースを3周して最初にゴールしたオペレーターが勝者となる場合など、いくつかのバリエーションがありました。
ちなみに、今回のレースには海外からショーン・テイラーやキム・ミンチャンらのスター選手が参加していましたが、いずれも本戦後半で脱落するという波乱がありました。両選手とも、圧倒的なスピードと安定した飛行をしていただけに、たった一つのミスをしたり、あるいは不運にみまわれるだけであっけなく脱落してしまうドローンレースの厳しさを見せつけられた展開と言えるでしょう。
決勝戦
この波乱の展開を制して決勝戦に残ったのは、岡聖章選手(写真左)、阿左美和馬選手(中央)、高梨智樹選手(右)の3名。
決勝のドローンレースは、3周を1フライトとし3フライトを行い、着順によってポイントが入る仕組みです。1、2フライト目は1着が50ポイント、3フライト目は100ポイントという変則ルールで、全フライトの合計の獲得ポイントが最も多かった選手が優勝という決まりです。
そして、いよいよ始まった最終決戦。3名中では、昨年の入賞者でもある岡選手が頭ひとつ抜きん出た速度と安定感を見せ優勝を掴み取るかに見えましたが……最後の最後でまたしても大波乱!
決勝戦の最後の3フライト目で岡選手と高梨選手の機体が飛行不可能となり脱落。唯一残った阿左美選手が「空中一人旅」状態でゴールし、100ポイントを獲得しての逆転優勝! 着陸するまでなにが起こるかわからないドローンレースのスリリングさと予想外の展開にオペレーター本人たちのみならず会場全体が驚きにつつまれた瞬間でした。
表彰式の様子
以下の写真は、JAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAIで優勝した阿左美和馬選手(写真左)にトロフィーを手渡すJDRA代表理事の小寺さん(右)です。
参加選手と関係者の集合写真。
レースのスタートとゴールになるゲートは成人男性の身長と同じくらいで、ドローンの目線で言えばかなり低めに設定されているところがポイントです。このゲートをくぐる際に飛行高度を誤り地面に落ちたり、他の機体と接触するケースがたくさんありました。
ドローンレースJAPAN DRONE NATIONALS 2017 in SENDAI取材の感想
初ドローン取材を終えての正直な感想は「とにかく、おもしろかった!」。これにつきます。「ウィン」「ビューン」と唸りを上げて目の前を飛ぶドローンが繰り広げる空中戦は実にスリリングで、見応えがあります。また、ドローンそのものは機械ですが、FPVゴーグルとプロポ(コントローラ)越しに操作しているオペレーターの興奮や焦り、意地などの人間臭さを大いに反映した動きになるのも興味深いところ。
ドローンというマシンどうしの戦いでありながらも、根底では人間と人間が技とプライドをかけた真剣勝負を行っているからこそ、心に迫るものがあります。
きっと今回のドローンレースに参戦された方、そして、観戦された方は、きっと次の大会が待ち遠しくてならないはず。そして、まだ、ドローンレース未体験の方は、ぜひ、会場に足を運んで観戦してみてください。きっと、楽しめますよ!
おまけ:仙台取材と言えば……
仙台と言えば牛タンが名物ですが、今回は食べに行く時間がなく……もう一つの名物、笹かまを買って帰りにたべることにしました!