『シン・エヴァ』ドローンオペレーターが広げる撮影手法の可能性とは

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2021年3月8日に公開され、興行収入、観客動員ともにシリーズ最高記録を更新し続けている「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。

「エヴァンゲリオン」は、第3新東京市を舞台に、主人公である碇シンジらが人型決戦兵器エヴァンゲリオンで”使徒”と呼ばれる謎の敵と戦うというストーリー。1995年にテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」初放送、その後に劇場版アニメも制作され、当時の若者を中心に大きな社会現象を巻き起こしました。

2007年からは「エヴァンゲリヲン新劇場版」として新たな劇場版アニメシリーズが開始。「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は新劇場版シリーズ全4部作の最終章となり、公開から2ヶ月半以上経った今も大きな話題を集めています。

この記事では「シン・エヴァンゲリオン劇場版」ラストカットの印象的な空撮で、ドローン・カメラオペレーターを担当した上村哲平さんに、ドローン撮影の魅力や上村さんご自身の今後の展望についてインタビューしました。

ドローンとの出会いが転機となった

ー上村さんはこれまでどのようなご経歴を積まれてきたのでしょうか?

キャリアの最初はプログラマーとしてIT系の会社に勤めていました。今と全く別の業界で仕事をしていましたが、その頃から映像業界に転進したい考えがあって、二年後にフリーランスで映画業界に入りました。もともとは映画監督になりたかったんです。助監督をしたり制作という役割をしていました。しかし、数年のうちにこれは長く出来ないと思い、助監督などの仕事は一度すべてお断りすることになります。皆さんもご存じとは思いますが映画業界は熾烈です。ちょっとの根性や目的意識など撥ね退けてしまう仕事です。映画監督をあきらめ挫折を味わい、それでも映像に関わりたい気持ちがあり撮影やカメラなどの技術を勉強しはじめました。

転向当初は撮影から演出・編集まで行う、今でいうビデオグラファーとしてひとつの動画作品すべてを担当しており、企業様や大学様に向けたお仕事をしていました。そのうち撮影だけを頼まれる事が増え、今ではほぼ100%に近いかたちで技術だけをしています。大きな転機となったのは2013年、ドローンがにわかに脚光を浴び始めていた頃です。

知り合いがドローンを持っており、それを初めて見せてもらった時から「これからはドローンの時代が来るのでは」という妙な直感がありました。すぐに自分でも導入し、今に至ります。ドローンを扱うようになってからは映画やCMの仕事もさせて頂けるようになり、一度はあきらめた映画業界にドローンのおかげで戻ってくることができ、今は非常に楽しく活動しています。今回の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」は30年近く前、学生の頃からのファンでありましたし、日本屈指のアニメーションに実写畑の自分が関われるとは夢にも思わず、本当に嬉しいお仕事でした。

ードローンで撮影をされる際に、上村さんが特に気をつけているポイントを教えてください。

当然のことですが、私たちは業務でドローンを飛ばしているのでルールを守ることが一番重要なポイントだと思っています。YouTubeなどのドローン映像を見て、自由気ままに飛ばせると思われがちですが、撮影の際は法律や条例などのルールを必ず確認し、許可を取っています。空側の許可は国土交通省の一年間の包括申請がありますが、それを取れたからと言ってどこでも飛ばせる訳ではなく、私有地や公共の場所で撮影する際は土地側の許可も取らなければなりません。ルールを守る事はこれからも長くドローンの業務を続けていくために特に気をつけているポイントです。

また、ひとつひとつ品質良く撮影することが大事です。特に私はフリーランスなので、お客様もしくは監督に「次も呼びたい」と思っていただかなければ、明日がありません。空側と地上側の両方のルールを守り、とことん高い品質にこだわることを、ドローン撮影では大切にしています。

ドローンは当たり前の機材になりつつある

ードローン撮影の魅力はどこにあると思いますか?

2013年当初、ドローンで撮影した映像を友達に初めて見せてもらった時は衝撃を受けました。今まで見たことのないアングルからの撮影が、揺れやブレなくしっかりコントロールができていて非常に魅力を感じました。

2021年現在となっては、ドローン映像は正直見慣れているところがあると思います。誰もが操縦できる機材になりつつあり、私が2013年に受けた衝撃は当たり前の世界になりつつあるなと思います。ここまでドローンの人口や間口が広がるとは思っていませんでしたが、今後は撮影機材の「三脚」や「ドリー」や「クレーン」のような当たり前の機材になっていくと思います。みんなが同じモノを使っているからこそ、どのように魅力的に撮影するか、他の方と差別化していくかはこれからの課題だと思います。…逆に、どこが魅力だと感じていますか?

ー自由な角度で飛ぶことができる、ドローンでしか撮影できないシーンがある点だと個人的には思っています。

確かに 、そうですね。今回の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の撮影でいうと、ドローンでしか撮る事のできないアングルでの撮影だったと思います。ヘリコプターでの市街地での撮影は、ある一定の距離から下へは下がってはいけない法律があります。また、クレーンなどの特機ではカバーできる撮影範囲が限られており、今回採用されたシーンはドローンでしか撮影する事ができなかったワークだったと思います。そういう意味では、あれは僕たち(今回のドローン撮影はパイロットとオペレーターの2名チームで実行)の仕事であったと思います。

ドローンを映像カメラマンの視点で動かす

ー「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の撮影で印象に残っているエピソードなどがあれば、お伺いしたいです。

一般的にはドローンを飛ばす際は、許可取りなどを全て自分たちで行わなければならず、市街地などでドローン撮影をする際は個人の働きだけで全ての許可を取るには限界があります。今回のドローン撮影の現場は普段は多くの人が行き交う市街地でしたが、僕らが撮影する周辺全てを、市の職員さん十数名が許可取りや監視、リスクヘッジをしてくれたからこそ撮影することができました。通常では許可取得が困難な場所でドローン撮影ができたのは、ロケ地の市職員さんとフィルムコミッションの全面協力があったからこそです。庵野監督の演出と私たちクルーとの対話については、すべて非公開とさせて頂いて、墓場までもっていくつもりですのでご容赦ください。それくらいに心に残る素晴らしい時間でした。

ー映画やCMなどの現場で撮影をされる際、映画業界で培った知識が活かされたと感じる時はありますか?

現場によると思うのですが、セクションによっては他のセクションの業務にあまり干渉し合わないこともあります。私は助監督をしていた経験があるので、映画の現場全体のチーム編成やそれぞれの方の役割が比較的よく解り、色々な人の動きが目に入ります。そういう面では助監督や制作をやっていた経験があるからこそ、映画やCMなどの現場で特に差し障りなく監督や撮影監督との対話が出来るのだと思います。

監督の要求をすぐに理解し、こういう意図があるからだと直感的に解りますし、それが解ればココまではニュアンスを足していいという判断ができます。映像業界を経ずに来ていたら、そこは一から勉強しなければならない分野だったと思いますし、これから空撮用途でドローンを活用される方はドローンそのものの知識・技術よりカメラの撮影知識・技術を学ばれるのが良いと思います。おそらく撮影側のほうがある程度まで習得するのに時間がかかるからです。

私たちにしか、できない仕事を

©︎batfactory

ー上村さんの、今後の展望を教えてください。

今後はドローン以外の機材も念頭に入れています。あくまでドローンから派生した、「自由な視点での撮影方法」を提案していきたいと考えています。最近では「ケーブルカム」というものを自分たちで開発していて、撮影機材として提案することもあります。ケーブルカムはオールドスタイルで、ドローン以前からありますが国内ではあまり使われない部類の機材です。しかし、現在はドローンを飛行させる際に様々な法律などのルールがありますが、ケーブルカムであればロープ伝いでカメラを移動させるため法律などの制限を受けずに空中撮影をする事ができます。ドローンと同じように、無線コントローラーで操縦できるものをフリーランスのチーム( Batfactory )で運用しています。技術的な難易度はケーブルカムの方が高く、それは全てロープワークにかかっています。ケーブルカム自体を扱うことより、安全に堅牢にロープを設置する、というところに真似されにくい事業としての強み・ノウハウがあります。ケーブルーカム本体も機材としての進歩がドローンほどはなく、売られている状態そのままだと実用できない可能性すらあります。

ー様々な撮影手法の開拓をされているのですね。

そうですね。例えば2021年5月現在の法律では、ドローンは第三者の頭上を飛ばすことができませんが、ケーブルカムであれば撮影することができます。また、被写体に追従して撮影したい際もドローンでは少しフワフワしてしまうし、被写体に寄れる距離も限られています。そういうシーンを撮影する際に、監督にケーブルカムを提案することもあります。2021年6月に公開予定の映画「ファブル2」ではこのケーブルカムを使っています。アクションシーンとカメラワークが見どころの一つでもあるこの作品ですが、ケーブルカムならでは、これでしか撮影できなかったシーンを担当できたと思っています。

ドローンも含めてやっていきたいことなのですが、既存にはないような無線装置を使いコントロールできる撮影機材を映像制作に活かしていきたいです。Batfactory はフリーランス3名で機材を開発・運用しています。ケーブルカムは2019年のInter BEE 2019にも出展しました。現在はコロナの影響もあり出展をとりやめることもありましたが、新たな機材も開発中です。

ドローンが最初にあったけれど、ドローンから派生して、また新たな撮影機材やユニットを開発していきたいと思っています。映像を見て「これどうやって撮影したの?」と驚いてもらえるような、僕たちにしかできない仕事を増やしていきたいですね。

上村哲平さんプロフィール

フリーランス(個人事業主) ビデオグラファー、ドローンオペレーター、ドローンインストラクター、ケーブルカムオペレーター。ドローン撮影のみならず講師として、2018〜2020年まで全国の消防機関でドローンの知識・技術に関する講義を行う。

【上村さん個人へのお問い合わせ先】

ウエムラ映像空撮事務所

【ケーブルカム等のお問い合わせ先】

Batfactory

 





2021.05.18