ドローンは「危険」なのか?
「空の産業革命」と言われるドローン(UAV、マルチコプター)は空撮や点検のみならず物流や農業、人命救助まで幅広い分野に活躍の場を広げています。
また、ドローンの安定飛行性能や衝突回避能力は毎年大きく進歩しています。したがって、正しく整備された機体を天候の良い日に飛行させる場合は、ドローンは特別危険な物ではありません。当然ながら「100パーセント絶対の安全」は存在せず、ドローンが墜落や衝突をするリスクを完全にゼロにすることはできないでしょう。
しかし、ドローンを過剰に恐れたり、事実に基づかない不安から「危ない物にちがいないから、絶対に許せない」と考えてしまえば、ドローンを活用することで社会が受けうる恩恵を失ってしまいます。
そこで、この記事ではドローンが絡む事故事例をまとめることで「事実に基づいた危険性の理解」と「予防策」を考える基礎とするべく情報を収集しました。
ドローンが起した事件やニアミスの事例
謎のドローンが飛来し、クリスマス直前の空港が閉鎖に
2018年末、不審なドローンが飛来したロンドンのガトウィック空港は閉鎖に追い込まれ、BBCの報道によれば利用者12万人が欠航や遅延の影響を受けたそうです。現在のところ、テロとの関連性を示す証拠は発見されておらず、飛行機へのダメージはもとよりけが人なども出てはいませんが航空会社や旅行者に与えた被害は甚大でした。
ガトウィック空港の滑走路は19日午後9時(日本時間20日午前6時)以降、2機のドローンが「敷地のフェンスを越え、滑走路に侵入」したため、閉鎖した
また、ドローンを空港内で飛ばしたとして一時逮捕されていたカップルが、実は誤認逮捕であった事が判明するといった混乱も発生。ドローン事件の操作の難しさを見せつける展開となったまま、記事作成時点(12月28日)においても真犯人の逮捕には至っていません。
英ロンドン郊外のガトウィック空港に複数の小型無人機(ドローン)が侵入したとされ、滑走路が一時閉鎖された事件で、一時逮捕されたものの容疑なしで解放された男女が、様々な権利を「完全に侵害されたと感じている」と語った。
日本でも空港へのドローン侵入事件が起きている
大阪国際空港(伊丹空港)内でドローンらしき物体が飛行し、日本航空機が着陸をやり直していた、というケースが報道されています。
2015年施行の改正航空法は、空港周辺でのドローンの飛行を原則、禁止している。今回の物体がドローンであれば、施行後に空港敷地の飛行が確認された初事例となる。
この事件があったのは2017年10月5日のこと。伊丹空港内部にドローンらしき物が確認されたため、JAL機が着陸を一度とりやめ、再度やりなおしをしていたとの報道があります。また、記事によれば、このドローンのようなものは「赤色で鳥ぐらいの大きさ」だったそうです。カラーから推測するに、トイドローンのような機体を使ったイタズラだったと推測できますが、このドローンらしきものは発見されずじまいだったので正体は不明のままです。
ドローンが起した事故の事例
イベント会場でのドローン墜落事故
4日午後、岐阜県大垣市で開かれたイベント『大垣ロボフェス』の会場で、空中から菓子をまいていたドローンが、集まっていた大勢の人たちの中に落下し、子ども4人を含む6人が顔や背中に軽いケガをしました。4日午後2時すぎ、最先端のロボットの技術を紹介するイベントが開かれていた大垣市郭町の公園で、空中から菓子をまいていたドローンが突然バランスを崩し、集まっていた大勢の人たちの中に落下しました。
2017年の11月4日に発生した事故です。子供も多く集まるイベントでの墜落だけに一歩間違えば人命にかかわる事故になっていたかもしれません。ものめずらしさからドローンを使って「菓子まき」をするという行為が適切だったのか? ドローンの利点を把握した上で、それを活かせる用途にのみに使うべきという教訓を残した事故でした。
大垣ロボフェス、ドローン墜落の様子
大垣ロボットフェスで、子供の菓子まきで、ドローン落ちて惨事に…あぶねぇな…
#ロボット pic.twitter.com/zHrIw1WbMP— ぶ~り(おしゃぶり) (@0start18) 2017年11月4日
大垣ロボフェス
ドローン墜落事故 pic.twitter.com/v5Maw4dUJl— カッビー (@BOFeXrwKmlpMomu) 2017年11月4日
姫路城にドローンが衝突
18日午前7時20分ごろ、世界遺産で国宝の姫路城(姫路市本町)の大天守北側の中庭で、清掃業者がプロペラが破損した小型無人機「ドローン」を見つけ、姫路城管理事務所に連絡した。
2017年6月18日に日本の国宝でもある姫路城にドローンが墜落する事故が発生しました。上記の記事によれば、ドローンを飛ばしていたアメリカ国籍の人物は自ら名乗りでており、警察が事情聴取を行なったそうです。幸い、城には目立った損傷は見当たらなかったそうですが、過去にも大天守にドローンが衝突する事故などが複数回発生しているとのこと。無許可で第三者の所有物から30メートル未満の距離でドローンを飛行させることは航空法違反となるためくれぐれも注意が必要です。
バードストライクでドローンが墜落
福井県おおい町で8月、小型無人機「ドローン」が鳥とぶつかり、墜落したことが12日、国土交通省への取材で分かった。ドローンのバードストライクが同省に報告されたのは初めて。
2017年8月12日に、国土交通省に報告があった事例としては初となるバードストライクによるドローン墜落事故が発生しました。飛行機との衝突などは、飛行高度を守り空港周辺を避けることでほぼ間違いなく回避できますが、鳥はいつ何時飛んでくるかわからないため、明確な回避方法がありません。なわばりを侵害されたと思った鳥の側から攻撃してくる可能性もあるため、縄張り意識の強い鳥類が多い場所でのドローンの利用は、特に注意すべきです。
工事現場でのドローン墜落事故
神奈川県藤沢市の建築現場で2月に小型無人機ドローンが墜落し、ぶつかった作業員がけがをしていたことが28日、国土交通省への取材で分かった。ドローンをめぐっては、国がトラブルの連絡を求めるようになった2015年12月以降、墜落など約50件のトラブルが報告されているが、人身事故は初めてという。
ドローンの飛行中に電波障害が起き、自動で離陸地点に戻る機能(リターン・トゥ・ホームか、それに類するものと思われる)が作動した際にクレーンにドローンが衝突し墜落、下にいた作業員の男性が顔面に大怪我を負ったそうです。オートリターンは便利な機能であるものの、帰還時に飛行するルートに障害物がある場合はそれを避けられる高度を事前に設定しておかないと、このような事故の原因になります。これほどまでに深刻な事故ではないにせよ、自動帰還機能が作動した際に「木に引っかかった」「斜面に当たった」という話は耳にすることがあります。オートリターン機能を備えるドローンを飛行させる際には、安全な高度を飛行して帰還する設定を事前にしておくことを忘れないようにしましょう。
飛行機とドローンの衝突事故
調べによると、ジュネーブ発ロンドン行のブリティッシュ・エアウェイズ(BA)機(乗客132人乗員5人)がヒースロー空港に接近中の午後12時50分(日本時間17日午後8時50分)ごろ、何かがエアバスA320の前方に衝突した。安全に着陸した後、機長が報告した。
旅客機とドローンが衝突する事故が2017年4月17日に発生していたとBBCニュースが報じています。記事では「前方に衝突」と書かれているので、エンジンや窓ガラスなどへの激突は避けられたようですが、飛行機の「弱点」に直撃した場合は、より深刻な事故になっていたかもしれません。
なお、同記事では、イギリスで発生したニアミス事例が列挙されており、以下を見るとかなりの頻度で大きな事故になりかねない事態が発生していたことがわかります。
- 2016年4月17日―ヒースロー空港に接近中のBA機が空中でドローンに衝突したもよう
- 2015年11月28日―ギャトウィック空港の滑走路上約30メートルに浮いていたドローンとA321機がニアミス
- 2015年9月30日―ヒースロー空港接近中のA319機の操縦室から9メートル以内を小型ドローンヘリが通過
- 2015年9月22日―ヒースロー空港を出発したB777機の右舷25メートルをドローンがニアミス。上空2000フィート
- 2015年9月13日―テムズ川上空からロンドンシティ空港に接近中のE170機から約20メートルで、「風船のような」中心部のある銀色ドローンがニアミス
- 2015年9月13日―スタンステッド空港離陸直後のB737機の上方5メートルを、ドローンがニアミス。上空4000フィート
- 2015年8月27日―マンチェスター空港に接近中のD0328機から50メートル以内をドローンが飛行。上空2800フィート
車とドローンの衝突事故
愛知県岡崎市の市道で今年5月26日夜、小型のドローンが落下し、走行中の乗用車と衝突していたことが分かりました。けが人はいませんでした。現場は、ドローンの飛行を原則禁止する人口密集地区でしたが、今回の機体は軽量のため、警察は違反には当たらないとみています。
落下してきたドローンに車が衝突するという事故例です。不幸中の幸という、墜落してきたのはトイドローンのような軽量機体であっため大事には至らなかったようですが、ドローンの影響でドライバーがハンドル操作を誤るなどすればより大きな被害をだしかねなかったケースです。
要注意! ドローン事故のフェイク映像
「旅客機の主翼の先(ウィングレット)に高速でドローンが激突する映像」として、『LiveLeak』で250,000回以上再生されていたこの影像。実はフェイクでした。この映像に映っている飛行機はサウスウェスト航空の機体で、同社はこのような事故が起きてないことを発表し、主翼(ウィングレット)に描かれた文字が本物の機体とは異なる「Branit.com」であることを指摘しています。ちなみに、このドメインはCGクリエイターなどがポートフォリオ(作品集)をアップロードするウェブサイトのものであるとのこと。
ドローン事故・事件
想定されるリスク
画像出典:FPSRussia – YouTube
今回の記事では空港に関連する事件や事故を取り上げてきましたが、ドローンが船や列車、ビルなどと衝突する事故が起こる可能性があります。また、市街地で空中輸送が頻繁に行なわれるようになると、コントロールを失ったドローンが人家に落下するというリスクがあり得るでしょう。
また、墜落や衝突だけでなく、テロなどだけでなくドローンを悪用したプライバシーの侵害などもドローンが関連する事件の可能性のひとつであると言えそうです。
ドローン事故への対策
ドローン用パラシュート
ドローンやUAV(無人航空機)が制御不能になってしまった場合に、専用パラシュートを無線で展開できるというシステムが『Mars NOVA(マーズ・ノヴァ)』です。専用の送信機にあるボタンを「長押し」することで準備状態に入り「ダブルクリック」でパラシュートが起動します。電波の有効範囲は見通しの良い場所で1kmほど。バッテリー駆動時間は公称最大48時間で、丸1日の使用にも余裕で耐えられる容量とのこと。
ドローン用エアバッグ
MRD社はドローンのフレーム内蔵でき、墜落時の衝撃を和らげられるエアバッグの開発を行なっています。
こちらがフレームにエアバッグを装着したドローンの試作機。
エアバッグは膨らむとこんな感じ。フレームとクッション、ガス発生装置などを含めた重量は約600グラムとのことです。
空中分解するドローン
言ってみれば、自爆装置のようなものでしょうか? ドローンに内蔵された専用コントローラーが墜落の危険を察知すると自動で機体をバラバラにするという機能の特許を米Amazonが申請しています。ひとつひとつの部品が小さくなれば万が一人や車、家などに衝突しても大きなダメージを与えにくくなる、という発想から作られた安全装置のようです。ただし、申請された特許がすべて実用化されるわけではないので、本当にAmazonがこの仕組みを登載したドローンを実運用するかは不明です。
編集後記
ドローンを利用する際には天候の影響やバードストライクなど様々なリスクがあり、飛行地域の下に人家がある場合は落下によりダメージを与えてしまう可能性を排除できません。
また、空港への侵入は大きく報道される事件、事案となることが多く、当然、違法でもあります。
以下の人口集中地区が確認できるマップや空港周辺の飛行高度制限を確認できるシステムなどを活用して、くれぐれもこのような事件事故を引きおこさないよう慎重になる必要があります。
地理院地図
仙台、羽田、伊丹、福岡空港では、周辺におけるドローンの飛行高度などの制限について、インターネットで調査できるシステムを提供しているので、こちらも併せて確認するようにしましょう。
仙台空港:高さ制限回答システム
羽田空港:高さ制限回答システム
伊丹空港:高さ制限回答システム
福岡空港:高さ制限回答システム
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