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山岳遭難者を救え!ドローン・5G救助システム実証実験進む

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近年、山岳遭難者の発見および救助活動に、ドローンが利用されることが増えてきました。次世代通信規格「5G」を活用した実証実験なども、総務省が中心となって活発に行なわれています。

紅葉が美しい季節が間近に迫ってきました。この記事を読んでいる方のなかにも、「ふだんは縁がないけれど、きれいな山々の景色を堪能しに、登山に挑戦してみたい」という方がいるのではないでしょうか。

しかし、最近では台風などの自然災害が全国各地で多発し、孤立してしまったり、ライフラインが切断されてしまったりと、大きな被害が発生しています。そのため、あらかじめ計画を練る登山においては、気候の変化などを注意深く観察し、ことさら慎重な判断をすることが大切でしょう。

それでも、私たちは自然現象を完全に予測しきることはできません。もしものケースに備えることはできても、万が一、登山中に思わぬ事態が起こり、遭難してしまったら……?

そんなとき、私たちを助けてくれるきっかけとなるのが、ドローンかもしれません。

産官学連携!「山岳登山者見守りシステム」の試験を実施

10月16日、「千畳敷カール」(長野県駒ケ根市)において、山岳遭難者の発見・救助を目的とした試験が行なわれました。

試験で使用されたのは、「山岳登山者見守りシステム」。総務省・信越総合通信局からの委託を受け、信州大学に所属する研究者の提案をもとに、KDDI・駒ケ根市などが連携し、実施されました。

この試験では、まず、遭難者に見立てた人に発信器を持って山に登ってもらい、位置情報を送信してもらいます。そして、位置情報に対して「登山コースから外れている」「移動が長時間ない」などの異常があれば、ドローンを飛行させて上空からの様子を撮影・送信するというものです。

発信器には、低消費電力ながら広域通信が可能な次世代無線技術「LPWA」を使用。ドローンには4Kカメラを搭載しており、遭難者かどうかをはっきりと視認できるようになっているそうです。5G対応のタブレット端末を活用しているため、4K映像のデータ量でも問題なく送信できるようになっています。

当日は霧がかかっており、必ずしも映像が鮮明とはいえない状況だったようですが、事前試験にて撮影した映像では、山中から手を振る遭難者(に見立てた人)の姿が見られたということです。

この試験を経て、運用面での課題も見えてきたといいます。今後は、地元の山岳救助関係者間での連携やシステムを活用しての対応経験などを積んでいく必要がありそうです。

また、今回は基地局を「5G」としていますが、それだけでは山岳すべてをカバーすることが難しいという一面も。使い勝手などによる課題が出てきたことから、総務省・信越総合通信局は、「できることから支援していきたい」を前向きな姿勢を見せています。

さらに、山岳救助において「山岳登山者見守りシステム」を本格的に活用していくには、登山者に「LPWA」の発信器を持ってもらわなければなりません。発信器そのものの普及や、遭難対策における啓発活動など、今後もさまざまな取り組みが必要となってくるでしょう。

KDDIは、2018年10月にも、静岡県御殿場市と包括連携協定を実施し、「ドローン山岳救助支援システム」の実証実験を行なっています。

この実証実験は、4G/5Gを搭載した通称スマートドローンを自動飛行させ、遭難者付近の状況を撮影するというもの。山岳救助の関係者は、この映像を見て、ドクターヘリを飛ばすなどの判断を迅速に行なうことができるようになります。

また、このシステムではドローンの自動飛行を行なうにあたり、正確な気象情報が必要となることから、株式会社ウェザーニューズの協力を得たそう。さらに、正確な位置情報の取得を目的として、登山情報アプリ『YAMAP』を提供する株式会社ヤマップのシステムが活用されているそうです。

「山岳遭難者の早期発見」に向けた公開試験

また、総務省・信越総合通信局では、今年10月9日にもドローンを使った試験を行なっています。こちらは、年々増加傾向にある山岳遭難者を早期に発見するための試験であり、長野県北安曇郡白馬村で行なわれました。

試験で使用されたのは、「公共ブロードバンド移動通信システム(公共BB)」。このシステムには、アナログテレビの放送が終了したことにより、空きが出た一部の周波数帯(200Mhz)が活用されています。

「公共ブロードバンド移動通信システム(公共BB)」は、これまで地上利用のみに限られていました。今回は、総務省・信越総合通信局が上空における利用の可能性を探るための調査検討会を設置し、産官学の連携により試験が実施されました。

このシステムでは、ドローンが地域間の中継として利用されています。山々がそびえ立つ電波の届きにくい地域間でも、ドローンを活用することで、長距離の画像送信が可能になるという仕組みです。地震や台風、豪雪など、自然災害を受けやすい長野県において、孤立地帯の状況把握など、防災面において活躍が期待できるのではないでしょうか。積雪時における利用が可能かどうかは、今後も試験を進めていくということです。

地上通信が届かない地帯における衛星ドローンの活用

また、今年5月には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とスカパーJSATによる衛星ドローンでの山岳救助の実証実験が行なわれています。

実験が行なわれたのは、5月29日・30日。鳥取県警察本部主催による「大山における夏山遭難救助訓練」で実施されました。

実験に使用されたのは、高度約3万6000キロメートルの衛星を利用したドローンです。一般的に、ドローンには、LTEなどの地上通信が用いられています。これにより、機体の位置情報や操縦者のコマンド信号などを受信するというものです。

しかし、山岳地帯の中には地上通信が満足に届かないエリアが存在するため、衛星通信が必要となってきます。ただ、衛星通信の装置は比較的大型であり、ドローンに搭載することは難しいとされてきました。

そこで、この実験では、小型で軽量な衛星通信装置を新たに開発したそう。その装置をドローンに搭載し、登山計画や登山者の足跡などをもとに捜索を行なうというものです。これにより、遭難者の位置確認ができるようになります。また、捜索中の隊員や、飛行中のドローンの位置情報なども管理画面に表示できるため、二次被害を避けながら、円滑な捜索活動ができるようになっています。

この実証実験において、地上通信が届かない山岳エリアでも、ドローンと衛星通信の連携によって捜索状況の資格的な共有ができたそう。地上通信が届かない山岳地帯こそ、災害時などにはなかなか人が踏み込めず、救助が難航することが多いとされていますが、衛星通信とドローンの活用によって、迅速な捜索および救助につなげていくことができそうです。

編集後記

今年、立て続けに起こった台風でも甚大な被害を受けた山岳地帯。登山を楽しむ人々はもちろん、日常的に山岳地帯で生活する人々にとって、捜索・救助活動をどれだけスピーディーに行なえるかが大事な命綱となります。私たちは、自然災害を完全に予測することはできないまでも、もしもに備えて日ごろから慎重に対策を練る必要があるでしょう。

そのうえで、有事の際に、一分一秒でも早く捜索・救助が行なわれ、多くの人命が救われるために、今後もドローンや通信技術の発達および環境整備が進展していくことを願ってやみません。

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2019.10.25