△済南黄河橋の周囲を巡回し、鉄製の構造を検査する3台のドローン(出典:Global Times)
読者の皆さん、こんにちは!外資系ドローン企業のしゃちょーです。
先週はアメリカ製ドローンのSkydioを使った鉄道の点検ソリューションについて取り上げましたが、今週はドローン製造業のメッカである中国から、中国最大の高速鉄道運営会社の京滬(けいこ)高速鉄道におけるドローンを使用した鉄道検査システムの最新ニュースをお届けします!
Skydioに関する先週の記事はこちらから!
中国最大の高速鉄道
京滬高速鉄道は、中国を代表する2大都市である北京と上海を結ぶ高速鉄道です。総延長距離は1,318キロメートルと、東京から鹿児島までの東海道、山陽、九州新幹線の3つを繋げた距離を1つの路線でカバーしています。
総工費2,000億元(約3兆円)をかけながらも、わずか3年間で竣工し、2011年の開業から10年間で13.5億人以上の乗客を輸送しているそうです。何から何まで規模が桁違いな中国版新幹線ですね。
そんな色々と途轍もない京滬高速鉄道ですが、日本でも今年の5月に閣議決定された「変動運賃制度」をいち早く導入するなど、テクノロジーによるイノベーションに明るいことでも有名です。
京滬高速鉄道株式会社は、6月23日に開通10周年を記念して5G技術と北斗ナビゲーション衛星システム(BeiDou Navigation Satellite System/BDS)をベースにした自律型UAV鉄道検査システムを国内外で初めて導入しました!
5Gと55基の衛星が実現するドローン点検
北京と上海という中国の大都市を結ぶ京滬高速鉄道は、運行間隔が非常に短く、基本的に最終電車が発車した後の午前0時30分ごろから午前4時30分ごろまでの4時間しか点検に費やすことができません。
レールや枕木を点検 する際は一度電車を止める必要があり、線路に沿って設置されている電線や電柱などを点検する際も、線路上に専用の機械を設置する必要があったため、基本的には電車が走っていないタイミングでしか点検することができませんでした。
しかし、ドローンと自律型UAV鉄道検査システムを約2年間にわたり開発・テストすることで、今回新たに24時間体制で点検を行うことが可能になりました。
ドローンの通信技術には5Gが用いられているので、旧来よりも遥かに鮮明な画像をストリーミングすることが可能に。これは遠隔地でドローンから送られてくる画像をモニタリングする職員の方が、見えにくいと思うことがなくなるということ。つまり、人が現場に行って目視で調査するのと同等の精密な点検が遠隔で実施できるようになったのです。
更に、このドローンは2020年に中国が開発を完了して実運用を開始した「北斗ナビゲーション衛星システム」を使用しており、GPS機能に頼らない飛行を可能にしました。GPSというのは、もともとアメリカが軍事目的で開発したものを民生用に転用していて、実はGPSの民生利用は精度が限られているのです。スマホの地図アプリで現在地がズレていたりするのは主にこのせい!
現在市場に出回っているほとんどのドローンは、実はこのスペックが限定された民生用GPSを使っており、トンネルの中や橋の裏側などの電波が届きにくいエリアでは、パフォーマンスが著しく下がってしまいます。しかしアメリカのGPSから遅れること30年、現代の最新のテクノロジーを搭載して打ち上げられた55基の衛星によって作り上げられた北斗ナビゲーション衛星システムは、旧来のGPSシステムよりも高度な運用を可能としています。
また、自律飛行というのも革新的なポイントの一つです。事前に飛行ルートを設定しておけば、ドローンを人の手で操作せずとも、自動で点検してくれるのです。操作する手間が省かれるので、長距離の鉄道網であってもドローンを用いて日常の巡視点検を行うことができます。
△京滬高速鉄道インテリジェント統合運用保守管理システムのデモ画像です。(クレジット:京滬高速鉄道株式会社)
鉄道会社がドローンを使うメリット
このようにドローンを使った鉄道の点検には様々なメリットがあります。
メリットとしては大きく3つあり、それぞれご紹介していきます。
一つ目は、機械損料を削減しながらも点検の生産性を上げることができます。橋の裏側や、川で分断された場所など、人が機械を用いてそこまで行かなければならない箇所でも、ドローンを用いることで従来よりも簡単にアクセスすることができます。結果として、点検する箇所にアクセスするまでの時間や費用を削減することが可能です。
二つ目としては、高所や危険な場所で作業する職員の安全性を向上させることができる点です。今までは高圧線が近くにあったり、暗がりの中で高所の設備を点検する必要があったのが、ドローンを用いることによって点検作業員の方の安全を今まで以上に守ることができるようになります。
最後に三つ目は、データ収集の頻度が高いことと、その詳細さが挙げられます。ドローンには、赤外線カメラやサーマルカメラといった、目的に応じて特定のセンサー類を取り付けることができます。そのため一度のフライトで様々なデータを収集することが可能になります。さらに、ドローンで収集された膨大なデータはソフトウェアを用いることによって分析、可視化することが可能です。データというのは、母数が多い方が正確に分析できるものなので、その分析結果もさらに精密さを増すのです。
このように、ドローンが鉄道の点検をするメリットはたくさんあり、鉄道の点検の精密さが向上すると、鉄道全体の運用の安定にも繋がるのです。
トラブル修理から「予測修理」の時代へ
これまでは双眼鏡による観察だけでは正確な検出ができなかったものでも、ドローンとソフトウェアを用いることによって、1cm程度の錆やボルトの脱落などといった非常に小さな問題でも発見できるようになりました。
また、そうした問題が発見されると、システムが異常箇所を従業員に知らせてくれるそうです。
△京滬高速鉄道のインテリジェント統合運用保守管理システムが密集したボルトの安全性を示す画像(中国中央放送ネットワークの記者、王景氏が撮影)
毎日の点検をより精密に行うことで、今までは気に留められなかった小さな欠陥でも気がつくことができたり、膨大なデータを分析することで破損する可能性のある箇所やタイミングを予測できるようになるかもしれません。
そうすると、今までの点検では何かトラブルが起きている箇所を修理していたものが、トラブルが起きる前に修理する、「予測修理」に移行するのです。
それは鉄道全体の運用の安定をもたらし、今でもたまにホームでアナウンスされている、トラブルが発生して列車を一時停止させなければいけない、なんて事態を減らすことに繋がっていきます。
編集後記
ドローンによる鉄道点検には、メリットづくしというわけではありません。ドローンの飛行時間の短さや、悪天候では飛べないという課題感等が残っています。京滬高速鉄道では、線路の複数のエリアにドローンの離発着プラットフォームを設置し、自動で給電出来るような最新インフラの確立を目指しているそうです。
鉄道の検査は依然として完全に手動検査に取って代わることができません。ドローンが全てを解決するわけではなく、どのように現行のオペレーションと共存させながら、お互いの良いところを活かしつつ、オペレーション規模を拡大する方法を模索することが重要です。
前回のSkydioの記事でも書きましたが、日本の鉄道会社がこのようなドローン点検をオペレーションに組み込むのは間近に迫っていると思います。海外の先行事例から学び、日本独自のシステムを作り上げて、今後も安心安全な鉄道インフラが維持できるといいですね。
20代はテレビ番組制作会社のADで、ゴールデンタイムの情報バラエティ番組を担当。月給16万&週休0日から、気づけば外資系企業の日本法人を預かる身に転身。ドローンの会社なのに、ドローン飛ばせないことで有名。ニックネームはドローン業界の「おしゃべりバズーカ」。海外のドローンニュースをお届けします!