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ドローンによるビル壁点検、現場は最新サーマルカメラ『Zenmuse XT2』をどう見ているのか?

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DJI Enterprise,M210,サーマルカメラ,ZENMUSE XT2

画像出典(Source):筆者撮影、以下同じ

サーマル+光学カメラ一体型のZenmuse XT2

DJIとFLIR Systems社が共同開発した赤外線サーマルカメラ『Zenmuse XT2』は並列配置した赤外線センサーとビジュアルセンサーを用いて映像データと温度データの両方を取得できるカメラです。ドローンで空から地上の温度差を検知しその様子をクリアな映像で見られるので、設備点検や火災現場救助、遭難者の捜索などに活用できます。

今回は、その『Zenmuse XT2』についてのメディア向け説明会をDJIが行なうということだったので、さっそくその会場に行ってきました。

DJI Enterprise,M210,サーマルカメラ,ZENMUSE XT2,発表会の入り口

こちらが『Zenmuse XT2』を搭載した『Matrice 210』。DJIのドローンラインナップの中でもハイエンドの製品です。

DJI Enterprise,M210,サーマルカメラ,ZENMUSE XT2

『Zenmuse XT2』はIP44相当の防滴仕様。

ドローン用サーマルカメラ,ZENMUSE XT2,側面

正面から見るとこんな感じ。サーマルセンサーの温度分解能(NEDT)は<50Kでフレームレートは30Hz。光学カメラは1,200万画素のセンサーを備え4K画質での動画撮影が可能。なお、日本での出荷開始は2018年6月中旬見込みとのことです。

ドローン用サーマルカメラ,ZENMUSE XT2,正面

Zenmuse XT2を早期導入した現場の声

今回のメディア向け説明会のハイライトは『Zenmuse XT2』を既に現場で使用している人たちが登壇してのパネルディスカッション。

DJI Enterprise,M210,サーマルカメラ,ZENMUSE XT2,パネルディスカッション

  • 株式会社セキドの高木さん(左):ドローンの販売と教育のプロ。今回は『Zenmuse XT2』を搭載したドローンの飛行も担当
  • 有限会社スギテックの谷野さん(中央):建造物の調査、診断、補修を行なう会社に勤める外壁調査のプロ
  • DJI JAPANの李さん(右):産業ドローンのセールスマネージャー

ビル壁点検のプロが語る
旧来手法とドローンの違い

スギテックの谷野さんによれば、ドローンを利用しないこれまで通りの外壁の劣化診断は主に2つの方法があるとのこと。

1つは「打診法」と呼ばれるもので、先に玉のついた棒で壁をなぞったり、叩いたりする方法です。ビル壁の塗装やタイルの劣化の進行度合いによって音が違うため、これを聞き分けて修理が必要な箇所を特定します。この方法は、建物や建材によって異常音が違うので、聞き分けられるようになるのに経験が要ることや、足場や高所作業車、仮設ゴンドラを使う必要があるため作業コストがかさむそうです。

もう1つは赤外線カメラを用いて地上から補修が必要な箇所を探す方法です。壁のコンクリートに塗られた塗装や貼られたたタイルが壁面から離れると、空気が間に入り暖まりやすくなり周囲との温度差が生じるので、赤外線カメラでそれを検知する方法です。地上から素早く行えるメリットがありますが、建物の高い階になると距離が離れるため正確に温度がはかりづらくなることや、角度差による誤差が生じることなどから一定の高さ以上のビルには使えないという弱点があります。

このようなこれまでの方法に対してドローンとサーマルカメラを使用すれば、足場要らずで常に一定の距離と角度からビルの壁面の温度を測れるため、より早く正確に修理が必要な場所を特定できるそうです。

ドローン操縦士が語る
サーマル+光学一体型カメラのメリット

壁面調査の現場で、ドローンのオペレーターを担当した高木さんは、サーマルカメラと光学カメラが一体化した『Zenmuse XT2』 だと、通常のビデオ映像のように壁の目地や模様をみながらそれに沿って飛行をさせると同時にサーマルで温度差データを取得できるため、飛行がしやすかったと話していました。旧モデルのサーマルカメラの場合は、光学カメラの映像が全く見られないか、見られたとしてもサーマルとは画角が違うものしか見られなかったため、操縦の難易度が上がります。

以下の写真は『Zenmuse XT2』から送られた光学カメラ映像の中にサーマルカメラの映像を映した「ピクチャー・イン・ピクチャ」の表示例。これを使用することで、広い視界を確保しつつ温度差による異常も同時に目視できます。

DJI Enterprise,M210,サーマルカメラ,ZENMUSE XT2,ピクチャー・イン・ピクチャーでの表示

最後に谷野さんは、建築年数がかさんで点検が必要になるビルが増える中、側壁の点検ニーズも急増しており、それに素早く正確に応えるためにドローンの活用に期待を寄せていると話していました。

なお、『Zenmuse XT2』がどんなカメラなのか? というのは、以下の公式動画でも詳しく解説されているので、ぜひ、チェックしてみてください。

DJI – Zenmuse XT2紹介ビデオ

編集後記

「サーマルカメラと光学カメラを1つにまとめた」と言われても、その便利さがイマイチピンとこない方も少なくないかもしれません。しかし、これまで2台別のカメラを使うか、飛行を2回に分けて行なっていたことが、「1台1回」でできるようになるというのは飛躍的な進歩です。さらに、サーマルカメラの映像に光学カメラの映像を重ねて表示可能にするなど、一体型ならではの連携ができるようになった点も見逃せません。これらの進化によりフライト回数を減らし時間を短縮できるだけでなく、より正確に対象物の温度と形状を見られるようになるため、飛行の安全性向上とデータ取得精度アップの両方にメリットがあるのです。

今回のパネルディスカッションで語られていた通り、太陽光や側壁などの点検においては従来の手法を超える効率と安全性が得られるためドローンを利用する価値は高いはずですが、導入のネックになるのがその価格です。産業用ドローンやサーマルカメラは都度見積もりでの購入となり、販売店や購入台数による価格差があるため一概にはわかりませんが、今回の「M210 + Zenmuse XT2」であれば250万円前後のセットになるはず。この金額を即決購入できる企業は多くないでしょう。しかし、逆に言えば値段以外に導入をためらうべき理由はなく、それだけの先行投資に見合う案件獲得が見込めるのであれば「Zenmuse XT2が使えるようになった今こそ、ドローン点検の始め時だ」と言えるのではないでしょうか。

2018.05.30