近年、AI(人工知能)の進化は凄まじいですよね。
エアコンやお掃除ロボットなどの家電製品から、スマートスピーカー、カスタマーサポート、自動車、医療など、領域問わず日常の至る所に存在感を示しています。
そんなAIがいよいよ「芸術」の領域にまで足を踏み入れてきました。
先日、アメリカの美術公募展にて「AIで生成した作品」が優勝したことが話題になっています。人類史とは切っても切り離せないほど密接につながる「芸術」に新しい変化が訪れたと言っても過言ではないでしょう。
今回はそもそもAIアートとは何なのか、物議を醸した今回の「AIアート優勝事件」の概要、そして、今後のAIアートについての考察について触れたいと思います。
AIアートとは
まず、そもそもAIアートとは何でしょうか?
AIアートとは、読んで字の如く、「AIを用いたアート作品」のことをいいます。つまり、AIという人工知能の技術を用いて創作された芸術作品のことです。
教師データという「例題と正解」という大量のデータセットを一度学習させれば、あとは自分で学習を進め、求められたことを実行することができます。
AIアートの場合だと、例えばAIに「ある言葉」と「その言葉に紐づく画像やイラスト」を覚えさせたとします。そうすると、「森」、「街」、「子供たち」と言葉を入力すれば、「森に囲まれた街にいる子供たち」っぽい絵を生成する、ということができるようです。
AIアート優勝事件
このAIアートの技術を使うことで起きた「AIアート優勝事件」について紹介していきます。
2022年8月29日にアメリカコロラド州で行われた「Colorado State Fair 2022 Fine Arts」にて、AIを用いたアート作品「Theatre d’ Opera Spatial」が優勝したことが話題となりました。
この作品を提出したのは、ボードゲームメイカーのInvarnate GamesのCEOであるJason Allen氏。テキスト情報でイラストを生成することができる「MidjourneyというAIを使って作品を創作したそうです。
何百を超える作品をこのAIを用いて生成し、その中から3枚を厳選しコンテストに応募したと公表しました。デジタルアート部門での応募だったため、定義上問題はないはずですが、この制作過程については世間から批判があるようです。
TL;DR — Someone entered an art competition with an AI-generated piece and won the first prize.
Yeah that's pretty fucking shitty. pic.twitter.com/vjn1IdJcsL
— Genel Jumalon (@GenelJumalon) August 30, 2022
9万を超えるいいね、1万3千を超えるリツイートと話題のこのツイートですが、リプ欄を見ると、この批判に賛同する人は多いと感じます。
We’re watching the death of artistry unfold right before our eyes — if creative jobs aren’t safe from machines, then even high-skilled jobs are in danger of becoming obsolete
What will we have then?— OmniMorpho (@OmniMorpho) August 31, 2022
「芸術性の死が目の前で繰り広げられているのを目の当たりにしている。クリエイティブな仕事が機械に奪われてしまうのなら、高技能の仕事でさえ全て機会に奪われてしまう危機に瀕していると言えるかも。その時、私たちには何が残されるのでしょう?」と、AIアートが芸術性の価値にも影響すると考えている人も少なくないようです。
参照:
https://coloradostatefair.com/wp-content/uploads/2022/08/2022-Fine-Arts-First-Second-Third.pdf
今後のAIアート
今後、AIアートはどのような影響を与えるのでしょうか?
上述のTweetでもみられた「AIが仕事を奪う」という問題についてですが、はたしてこの問題は芸術の領域で起こりうるのでしょうか?
AIの専門家である坂本真樹(さかもと・まき)教授は「AIアートの発展は、創作活動の仕方に影響がでることはあるかもしれないが、AIが人間のアーティストにおき変わるということではない」と述べています。
AIが発達することによって、アーティストたちはさまざまなアート作品のサンプルを見ることができる、そしてそのサンプルから得たインスピレーションをもとに創作活動をすることができます。AIが仕事を「奪う」のではなく、AIが創作活動を「サポートする」という感覚に近いのかもしれません。
ただ、芸術の価値を評価するのは人間なので、今後どのように芸術作品を評価するのか?ということも重要な論点になってくるかと思います。今回物議を醸したコンテストで評価をしたのは紛れもなく人間、会場を訪れたお客さんたちです。多くの人が価値を感じるものが高い評価を受けることは悪いことなのか?人が感動するものは、芸術作品というアウトプットそのものなのか、創作の過程なのか、それとも作者のストーリーなのか?
今回の一連の議論は、芸術の価値を改めて考えるいいきっかけだったのではないでしょうか。
AIが今後も進化し続けるのは自明です。
アートをAIで生成できることによって多くの人が創作活動に挑戦できるきっかけとなることも示唆されています。アートが多様化するこれからは、このAIアートが新たな「ルネサンス」ともいえるのかもしれません。
編集後記
「AIによって芸術が死んだ」、という論調は、ニーチェの「神は死んだ」並に強烈なインパクトがあります。芸術が機械に乗っ取られるという意見がある一方、AIアートの登場は人間の可能性をさらに広げるものとも捉えられ、この論争は今後も加熱していくでしょう。
オリンピックで使用されている最新の靴が簡単に手に入るように、高画質なカメラがスマートフォンで使えるように、人々にとって新たな高尚なものが手の届く範囲に降りてきた、そんな感覚を覚えます。AIアートの発展と、それに伴う人々の考えの変化を今後も注目していきたいと思います。