株式会社A.L.I. Technologies(以下、「A.L.I.」)は、国土交通省都市局が主導する「Project PLATEAU(以下、PLATEAU)」の一環として、山梨県甲府市にてSLAM技術と3D都市モデルを活用したドローンの自律飛行システムに関する取り組みを実施しました。
本記事では実証実験の内容をご紹介します。
PLATEAUとは
日本全国の3D都市モデルを作るプロジェクトです。
3Dモデルをオープンデータとして公開し、そのデータを用いて都市開発や災害のシミュレーションや、民間市場のサービスの発展を促す、DX(デジタルトランスフォーメーション)が本プロジェクトの狙いです。
詳しくはこの記事をご覧ください。
2022年12月5日から施行された改正航空法(*1)により、都市部における目視外飛行(「有人地帯(第三者上空)での補助者なし目視外飛行」通称、レベル4飛行)が解禁されました。これに伴い、障害物で込み合う都市部の中においても、安全に目視外飛行が実現できるシステムの必要性が出てきました。
そのため、この3D都市モデルをドローンの飛行に活用するということで、A.L.I.は都市部での安全な飛行に焦点を当てて実証をすることにしました。
結果として障害物が込み合った都市部でも正確な飛行を可能にするSLAM(自己位置推定)技術を用いた飛行と、A.L.I.が開発した自律飛行システムを組み合わせた実証を行いました。
SLAMとは
自己位置推定と環境地図作成を同時に行う機能のことです。
LiDARセンサーやカメラなどにより周囲の環境を常に観測し、2次元もしくは3次元のモデリング(自分のいる空間の地図)を作成します。それと同時に、そのモデリング(地図)内のどこに自分がいるかを把握することの2つを合わせてSLAMといいます。
そのため、初めて行く場所(事前に地図情報がない状況)でも周辺を正確に把握することができます。
例えば、カーナビは予め用意されている地図データを用いて、その地図のどこに自分がいるのかを衛星情報によって推定します。そのため、地図データがないと自分の位置が判断できません。
SLAMは周囲環境のモデリングも自分で行うため、自分で地図データを作ることができます。そのため、データがない場所でも自己位置の推定を行うことができるのが特徴です。
SLAMの代表的な使用例としては、お掃除ロボットや、ファミリーレストランなどで用いられている自動配膳ロボットなどが挙げられます。
3D都市モデルとは
画像出典:https://www.mlit.go.jp/plateau/learning/tpc01-2/
Plateauで整備している3Dモデル(CityGMLデータ)には精密性の段階がLOD1~4という4段階に分かれております。今回実証を行った甲府市の県庁舎周辺はLOD2という建物の正確な高さと外観や屋根の形が反映された3Dデータとなっております。
画像左:建物のポリゴンデータ(高さも反映されていない状況)、画像右:PlateauのCityGMLデータ(LOD2)
本年度にA.L.I.がおこなった事業の内容
飛行の内容
本実証実験では、SLAM技術を用いた飛行とA.L.I.が開発した自律飛行システムを組み合わせた実証を行いました。
山梨県甲府市は本年のPLATEAUプロジェクトで3D都市モデル化されることが決定しており、県庁周辺のエリアは3D都市モデルのデータフォーマットであるCityGMLというデータフォーマットを用いてバーチャル空間上で都市を再現。今回の実証では県庁周辺のデータを使用しています。
ドローン機体にはステレオカメラやLiDARセンサーを取り付け、スキャンデータから飛行中のリアルタイム周辺測位・自己位置推定を行いました。
本実証の目的は、SLAMで作成されたマッピングデータと3D都市モデルを掛け合わせ、自己位置推定の精度を向上させるシステムが機能するかを確かめることにあります。
SLAMはリアルタイムのマッピングと自己位置推定しかできないため、SLAMセンサーから取得されたデータと3D都市モデルをマッチングさせる作業を別に行わなくてはなりません。その作業も2通りの方法で実証いたしました。
①ドローンに小型高性能コンピュータを搭載して、それにより重ね合わせの処理を行う方法。
高性能コンピュータはドローンに直接搭載するため、接続などのマシントラブルが発生しにくい利点があります。しかし、ドローンの重量が増えてしまうのと、高価なCPUを搭載するというリスクがあります。
②コンピュータに代わり、シェアードコンピューティングを用いてクラウド上で処理をするという方法。
シェアードコンピューティングを用いることにより、大量のデータの処理も容易に行うことができ、機材やデータのアップデートにも柔軟に対応できるという利点があります。
実証結果
LiDAR SLAM, Visual SLAMの両者とも、3D都市モデルをマッチング先のデータとして用いることは有効だということが立証されました。さらに、飛行させる前に飛行環境を大方把握できるため、飛行前の工数削減や、一定の精度向上を実現しました。
LiDAR SLAM, Visual SLAMともに3D都市モデルを掛け合わせることで、GPSなどの位置情報システムと比較しても高精度な自己位置推定が可能であるという結果が得られました。
シェアードコンピューティングについては今回の実証範囲が限定的であったためコンピュータと比較して大きな差は見られませんでした。しかし、将来的に日本各地での活用を考えると、シェアードコンピューティングによって飛行に必要不可欠な基盤データとなる 膨大なデータ量の3D都市モデルをサーバー上に集約させておくことが可能になります。そのため、ドローン側にコンピュータの機能の一部を省くことができます。省いたことによって生じた容量でほかの機能を追加するなど、より多様なユースケースでの活用の幅が広がるというメリットが考えられます。ドローン側で行うことが少なるため、ユーザー側の負担も減り、飛行に対する工数の削減が期待できます。
一方で、今回のようなシステムは飛行する場所上空の通信強度に依存することになるため、通信環境によっては処理がタイムアウトするなどの課題も明確となりました。
3D都市モデルは公的なオープンデータとして整備されていることから、ドローン事業者としては追加コストや許可手続きを経ることなく開発が進められることは大きな優位性があるといえます。また、3D都市モデルの整備が進むことで特定の地域に限らない活用ができるようになるため、日本各地で飛行が求められるドローン役務との相性は非常によいという結果となりました。
シェアードコンピューティングについては、通信速度に依存するという課題があるものの、事前に上空の電波の状況を事前に調査をすることにより、通信が安定した航路を事前に設定することにより、活用が進められるという結果になりました。
編集後記
レベル4飛行に向け、様々な企業がシステムの研究や実証を進めております。先日、はじめて型式認証を取得した機体が登場し、いよいよ我々の頭上をドローンが飛ぶ時代が実現しそうですね!
今後もレベル4関係のドローンニュースから目が離せません!